はちみつと焼酎

BTS 방탄소년단/SUGA. 日本語訳など

BTS兵役免除問題 賛否両方の意見と頭の整理

何年かずーっと問題になってきた「兵役問題」。いままでいろんな延期措置で先延ばしになってきましたが、今年満30歳になるJINの期限がいよいよ迫ったということで、動きが出てきました。

KPOPトレーナーで、Youtuberのイン・ジウンさんが、分かりやすく解説していたので、この動画に沿って整理してみます。

youtu.be

 

 

メンバーのこれまでの発言とHYBEの立場

大統領職引き継ぎ委の動きとHYBEの見解

前提として。韓国の男性には兵役の義務があります。入隊期間は18カ月。いろんな延期規定を適用したけっか、BTSのメンバーはそれぞれ満30歳までの入隊が必要となっています。なので最年長JINの入隊期限は2022年中。免除になると「代替服務」と言って、一カ月間訓練を受けておしまい、ということになるみたいです。

こちらは4月7日の報道。

news.v.daum.net

大統領職引継ぎ委員会が最近、大衆音楽関係者を呼んで非公開会議を開き、BTSをはじめ大衆文化芸術家の軍服務を免除する問題について意見を聞いたことが分かりました。 引継ぎ委側は、「直ちに扱う事案ではない」という立場だが、政界の議論に飛び火するかどうかに関心が集まっています。

 

韓国の大統領は5月に替わるのですが、その次期大統領のチームが動いたということですね。

この動きに呼応するかのように、この問題についてHYBEが米現地時間の9日、初めて公に言及しました。

n.news.naver.com

【HYBE CCOの李ジンヒョン 氏の会見】

「韓国で兵役問題がどれほど重要なのか知っているため、会社として言及するのが慎重になる。…アーティストたちは兵役に関する事案について会社に一任している」。

実際、メンバーたちは以前から繰り返し国の招集に応じるというメッセージをHYBE側に伝えており、今もその考えは変わっていないという。

「しかし2020年から兵役制度が少しずつ変わり始めた。そのため会社と協議をしながら見守っていた。…ここ数年間、兵役制度が変わり、時期を予測できない。本人たちの計画を立てて音楽をするのが難しいため、アーティストたちも苦しんでいるのが事実だ。 究極的には韓国社会、アーティストいずれも有益な方向になるよう最善を尽くしている。 今国会で整理されてほしいという考えだ」

会社としてはいろんなシミュレーションをしていると思いますが、計画を立てられないのは、大変でしょうね。そしてラスベガスコンサート2日目の前に、BTSのメンバーたちは記者会見。JIN が「会社に一任している」と語りました。

「当然行く」→「会社に一任」立場を変えた?

イン・ジウンさん)

彼らはこれまで既に「当然入隊して義務を果たす」と言ってきた。彼らが免除して欲しいと言ったわけではないし、それを曲にもしている。ただ会社の利益のために話せなくなっている。

今回HYBE側が国に「早く結論を出してくれ」と要請し、政府側も「4月中にも検討する」と答えた。メンバーたちはこれについて「会社に一任している」と話した。

動画冒頭ですが、これは今回の動きがあって、メンバーたちへの批判が出ていることに対しての話のようです。例えばこの記事。

“軍隊は行くから黙っておけ” BTS 過去の発言, ユ・スンジュンのように自分の足を引っ張るか [다쿠아즈] | 서울신문

AgustD(SUGA)のD-2「What Do You Think?」の歌詞を紹介しながら、「たった2年前とは全く立場を変えている」と批判しています。またJINも2年前の会見では「兵役は当然の義務であるため、国の命令があればいつでも応じる予定だ」と言っていたのに、今回は「会社に一任」と苦しい言い訳をしている、と書いています。

 

イン・ジウンさん)

これに対して「何だ、おまえら行くと言っていたのに、立場を変えるのか」という声もあるが、これは短絡的な意見。

歌手は当然所属会社を通じて話をしないといけない。HYBEはまだBTS以外にワールドクラスのアーティストはおらず、実質上すべてBTSで会社が回っている。ここでBTSに2年の空白が生まれれば会社がふらつくかも知れない。会社からすれば当然「BTSほどの業績があれば免除されてもいいじゃないか」と国にアピールするだろう。

その状態で、BTS自身がいくら力があるとはいえ、会社が前面に出ているときに「いや、僕たちは軍に行きますよ」と個々のメンバーが言えるだろうか。絶対無理だ。言いたいことはたくさんあっても「会社の意見が僕たちの意見だ」と言うしかない。

上にあるHYBEのCCOの言葉をどう取るかですよね。

私なんかは「とにかく免除してくれよ」と言うよりは、「どっちにしても決着をつけてくれ」というように取ったんですが。最後には「究極的には韓国社会、アーティストいずれも有益な方向になるよう最善を尽くす」と言っていますし。これがどういう意味かは、この後の賛成・反対意見を見ると分かるような気がします。

 

そして4月12日。

次期大統領が所属する政党「国民の力」の幹部が、ラジオのインタビューで「BTSの入隊免除」について早期に決着させる意向を表明。

youtu.be

中身はここからツイート6個分ぐらい。

賛成意見

BTSほどの業績なら入隊免除されるべき」

素朴な意見として、「あのぐらいの業績なら免除してあげれば」ということ+業界のためにも、ということです。感覚としては「BTSはもうオリンピックのメダル級じゃないか」とか、「クラシックの国際コンクールと比べたら、BTSの方がすごいじゃないか」など、割と「感覚」として不公平じゃないかと。

世論調査では「特例に賛成」が男女、年代を問わず上回っています。

Dispatch記事:BTSは芸術ではないのか?…防弾少年団兵役特例の世論調査*1

  • 芸術要因(特例)に含まれるべき分野は?→KPOP 65%
  • 国威発揚と文化の発達に最も寄与している人物は?→BTS 64%

もうひとつは韓国ギャラップの調査

BTS兵役特例、賛成59%・反対33%*2

大衆芸術家の兵役特例について尋ねたところ、「含めるべきだ」という回答が59%、「含めてはならない」という回答が33%だった。

そしてKPOPの業界から見ると、それはもっと切実です。

イン・ジウンさん)

まず僕自身も同じ業界内の人間として賛成の立場。BTSは現在グローバルかするKPOPの柱的な存在。この全盛期で2年の空白ができれば、KPOP全体にとっても被害が大きい。彼らが2年休むことによって失う物が大きいと言うこと。

「失う物」のなかには、業界だけじゃなくて韓国経済への効果も入るでしょう。

「現在のスポーツ・芸術分野の免除の基準を、大衆文化にも広げるべき」

イン・ジウンさん)

スポーツ選手は国際大会でメダル、音楽家なら国際コンクールなどで優秀な成績なら、という形で特例がある。これは全盛期が短く、その時期の一日一日が大切な人たちに特例が与えられるチャンスがあるということ。ただ、これは全てクラシックな分野。カルチャーの中心である大衆文化にはその基準がない

なので今回のBTSを起点にその基準をつくろうということ。

現在ある特例の理由は国威発揚と全盛期が短いという特性。これは大衆文化でも十分適用可能。実際、BTSほど国威発揚している人はいまほかにいない。かつてのキムヨナ選手ぐらいでしょう。なので、BTSを起点にして基準を作らないといけないということ。

こちらはずっと議論されてきたもので、こちらの記事で、「韓国音楽コンテンツ協会」がコメントしています。

BTSメンバーの意見を置き去りにしたまま続く“兵役免除”論争…現在の争点はどこにある?|スポーツソウル日本版

 

「(韓国兵務庁が)免除対象である純粋芸術、スポーツ分野ほど国益に寄与していないと考えているのか、これが公平性に合うと考えいるのか、問い直したい」と伝えた。

また同協会はBTSの兵役免除と関連した記事コメントを分析した結果、「反対する意見よりも賛成が多く、性別や年齢を考慮しても軍服務を履行した男性たちが大多数」であったと強調し、「唯一、大衆音楽界にだけ過酷な基準を設けた兵務庁に、継続的に異議を提起する」と訴えた。

議論はされてきたのですが、昨年11月に法案は保留になりました。

反対意見

次に反対意見を見ていきます。

BTSは国のために働いているのではなく、私企業のアイドルだ」

イン・ジウンさん)

BTS国威発揚に貢献したとしても、それは私企業が利益を追求した結果、ワールドクラスになったことによるもの。国家代表になったわけではない。

ソンフンミン選手の場合なら、プレミアリーグに出ることの方が、個人の栄光やキャリアの観点からは重要。それでもヨーロッパから韓国に来るスケジュールやコンディションを調整して、国家代表としてAマッチに出場する。国のために個人の栄光をある程度犠牲にするということ。それで兵役が免除される。

BTSの場合はビルボード一位など世界的な成果を出したが、HYBEが私企業ならビルボードも同じ私企業。国家や公的な利益のために働いた訳ではない。だから別物として考えなければならないということ。

「明確な基準が定められていない。準備が出来ていない」

イン・ジウンさん)

明確な基準を作らず、ただBTSがすごいから免除してあげる、と言う形の「特別法」になればそれは公正ではない。今回のことをきっかけにして、大衆芸術分野での基準が作られないといけないのに、そうじゃない。この分野での公的な基準を作れるのか、という問題。ビルボード一位を基準にしたとして、そうするとビルボードも私企業なので、いろんな小細工をする人が出てくるかもしれない。そうするとKPOPのイメージが悪くなることだってあり得る。なので、基準をつくるのには何より慎重であるべきだということ。

ただBTSがすごいからBTSを免除にしてやればその業界やファンから支持されるから、支持率のためにBTSを利用するのではないか。ということ。

何年間もこの問題は取りざたされ議論されてきたのに、政府の側では基準をきちんと定められていない。BTSのためだけの特別法じゃなく、この先大衆芸術文化人たちが、その基準を通じて、ほかの分野の人たちのように確実な兵役の解決法を作れるのか、この部分に注目するべき。

BTSのために急いで作った特別法ではなく、大衆文化芸術がよりよい未来に進むための基準が確実に作られて欲しい。

昨年法案が議論されていたときは「明確な基準をつくろう」という方向で動いていたと思うんですが、それが保留になってしまいました。実際難しいでしょうね。こっちがOKなら「数学オリンピックはどうだ」「E-Sportsも入るのか」など、範囲を定めることだって難しい。

結局この部分は解消されていないまま、「時期的リミット」と「政権交代」のタイミングで動きが出てきて、議論が元に戻ってしまっているような印象です。

 

賛否どちらも間違っていない

拙速な結論で「特別法」になる懸念

紹介した動画のインさんも強調していたんですが、賛成も反対も間違っているわけではなく、観点の違いだと思います。

想定していなかったポップカルチャーでのBTSの功績の大きさに、「兵役免除問題」がイシューになってきたわけですが、「特別扱い」は本人たちも望んでいないだろうし、検討するならきちんと基準を作る必要がある、というのはその通りですね。特別扱いされると、メンバーたち個人個人の将来にも影を落とすのではないか、と個人的に心配しています。さらに政権交代で急いでいる感じもあり、「支持率のためではないか」という疑いも。あと本国のARMYは一貫して「政治的に利用するな」と言ってきました。

 

こちらのニュース解説の弁護士さんも、同じような論調でありました。

youtu.be

要約はここからのスレッド(ツイート誤字ってます。正しくは「該当しないのはおかしい」)

世論調査についても弁護士の方が語っていて「MC:世論調査では59%は賛成です。弁護士:こういうものは設問によって数字が変わってくるので…」と言っています。確かにね~。BTSの功績は韓国内で認められているので、この世論の支持を背景にしたいんでしょうが、政策としてはポピュリズムだな…とちょっと心配です。

おまけのシミュレーション

結論がどうなるのか分かりませんが、免除されないとすれば最初に書いたように今年中ががリミットです。その場合どのような形で入隊するのシミュレーションを、証券会社がレポート(13p)していました。ファンとしてはどうしても気になる部分なので、抜粋しておきます。

  • 一人ずつ入隊
    • 最も少なくなるのは2026年で3人
    • 7人全員そろうのは2030年
  • 2/2/3のユニット入隊
    • 2028年はジン、SUGAの2人の活動になる
    • 7人全員そろうのは2028年
  • 4/3のユニット入隊
    • 最初の2年はマンネライン3人の活動
    • 7人全員そろうのは2028年
  • 全員同時入隊
    • 約2年の空白期間
    • 2025年に7人全員で復帰

 

*1:調査機関:(株)マクロミルエムブレン/調査対象:満14~59歳全国一般国民1,000人/調査期間:2022年3月11日~3月15日/調査方法:オンラインアンケート/信頼水準:95%/誤差範囲±3.1%

設問は以下のようなもの。 

・あなたは『芸術要員制度』の条件および基準に対する改善が必要だと思いますか?・あなたは国威宣揚及び文化の発達がどれほど重要だと思いますか?・あなたは芸術要員制度のうち、国際音楽コンテスト・国際舞踊コンテスト・国内コンテストの分野についてどのくらいご存知ですか?・芸術要員選定基準で最も重要な要素は何だと思いますか。・制度の趣旨を考慮すると、芸術要員制度に含まれなければならないと考えている分野を選択してください。・それでは、国威宣揚と文化の発達に最も貢献していると思う人物は誰ですか。・大衆文化従事者に代替服務制度を適用することについてどう思いますか?

*2:韓国ギャラップが2022年4月5~7日、全国の満18歳以上の1004人を対象に実施した調査(標本誤差は95%信頼水準に±3.1%)元データ→한국갤럽조사연구소