はちみつと焼酎

BTS 방탄소년단/SUGA. 日本語訳など

「Tシャツ問題」白書を読んでみた

トランプの置き土産と言っていいのでしょう。

アメリカで黒人へのヘイトクライムに続き、アジア系へのヘイトスピーチヘイトクライムが頻発しました。世界的に#StopAsianHate #StopAAPIHateが叫ばれ、BTSもこのハッシュタグをつけてツイートしました。

 

愛する家族を失った方々に慰めの言葉を送ります。そして悲しみと共に心から憤りを感じます。

私たちはアジア人だという理由で差別を受けた記憶があります。道を歩いていて何の理由もなく罵られ、外見を卑下されたこともありました。さらにアジア人が何故英語を話すのかと言われたこともあります。

私たちの経験はまさに今起きている出来事に比べるととても些細なことです。しかしそのときに経験したことは私たちを萎縮させ、自尊心を奪いました。いわんや人種が違うという理由で憎悪と暴力の対象になるということは私たちがとても表現できない苦痛であることでしょう。

いま繰り広げられている出来事はアジア人としての私たちのアイデンティティーと分けて考えることはできません。事実このような話を引き出すまで、また私たちの声をどうやって届けるか決めるまでたくさんの悩みがありました。

しかし結局、私たちが伝えなければならないメッセージははっきりしています。

私たちは人種差別に反対します。

私たちは暴力に反対します。

私、あなた、私たち全員に尊重される権利があります。共にいます。

 

 

世界的なスターとなった自分たちの影響力の大きさに悩みながらも、痛みを自分のこととして受け止めての発信に、とても感動しました。

しかしこのツイートに対し、同じくヘイトを向けられているアジア人でありながら文句を言ってくる人がたくさんいました。不思議です。まあ韓国がらみはとりあえず腐す嫌韓ネトウヨは、なんでも文句つけるものですが、そんな彼らが印籠のように持ち出すのがいわゆる2018年の「原爆Tシャツ」事件です。

 

最近出版された「BTSとARMY」のなかに、この事件についての記述があり、そこで当時ARMY有志が、「White Paper Project」(WPP)という詳細なレポートを作っていたことを知りました。whitepaperproject.com

 

「事件」の経過と、日本・韓国、そして国際的にどのような報道があったか。それに対してどのような主張がされ、ビッヒ側でどう対応したか。そしてARMYの中でどのような反応があったかが記録されています。そして同時にこの問題を考えるに当たっての歴史的背景や資料を提供した力作です。 

 

しかし、日本が「当事国」なのに日本語版がないようでした。なので日本語訳して公開しようと思ったんのですが、プロジェクトのアカウントに聞いてみたところ、ストップがかかってしまいました。

 

当時かなりの攻撃や脅迫まがいのことがあったようで、そのせいで日本版は断念してしまったようです。(逆に日本の異様な状況が少なくともこのプロジェクトに関わったアミには知られたんでしょうね…。)

これはもうファンダムというより、日本社会の病理だと思います。

 

仕方がないので白書の引用と感想を少し。

マスコミ報道の検証の部分で、日本では一貫して「原爆Tシャツ」と呼ばれた問題が、韓国では「光復節Tシャツ」「韓国国民が光復を迎えて万歳を叫ぶ写真などがプリントされた」Tシャツと呼ばれました。そこから視点が違うんですね。

なぜそういう違いが出てくるかというと、日韓の歴史認識の話にどうしてもなります。

 

最初に私のスタンスを表明しておくとこちらのスレッドになります。

こちらのWPPでは3. 歴史的背景 の部分で、日韓(とそれ以外の国も)の歴史認識の断絶を埋めることにページを割いています。

 

歴史認識の差は双方にあって、

  1. 日本では加害当事国にも関わらず過去の朝鮮半島の植民地支配についての知識が少ない 

    www.y-history.net

    (日本語でGoogle検索するととんでもないのも出てくるので、とりあえず教科書的なリンクを貼っておきます)
  2. 韓国では原爆による一般市民の被害(その中にはコリアンもいた)や核兵器そのものの非人道性についての知識が少ない

これに尽きるのではないかと。

1に関してはその「過去」がいまでも日韓の間で解決されていない問題として残っていて、人権上の問題から外交の問題まで、そしてアイドルを推すという活動にも影を落としているということです。(そもそも加害なんかしていない!日本が韓国を近代化してやったんだ、有り難く思え…!という歴史修正主義者については、相手にする暇も気力もありませんので寄ってこないでください)

 そして2に関しては、日本が支配した朝鮮半島(いまの韓国・北朝鮮)や東南アジアでは、原爆が解放の象徴として受け止められ、その無差別の被害が知られていないことが問題です。そこにはコリアンの被害者もいましたがほとんど知られていません。この原爆の評価については、加害国であるアメリカでも(であるからこそ)「原爆で戦争が終わった。原爆投下は正しかった」という認識がまだまだ根強くあるのも問題ですよね。

日本への原爆投下は「正しかった」か? アメリカ人の歴史認識に変化の兆し | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

 

そういう差があるんだよ、ということを踏まえて「Tシャツ問題」を考えるとき、もう一つ大事なのは一個人としての自分がどういう立場で向き合うかだと思います。その立ち位置によって、見えてくる景色が変わってくると思うんですよね。

立場というのは、日本(なり韓国なり)という国家と自分との距離をどう取るか、ということです。

日本(もしくは韓国)に対する批判はすべて日本(もしくは韓国)人である自分への悪口であり、非難だと感じるのかどうか。ヘイトスピーチではなく、政府や政策に対しての批判ですよ)

その関連で言うなら、カジュアルすぎて考えずにみんなが口にしてるであろう「反日」という言葉についても意見があります。

スレッドちょっと長いです。あと投げやりな口調になってるのはご容赦ください。

 

話を戻すと、原爆の被害者や「従軍慰安婦」にされた人たちを、国家や権力によって犠牲になった一人の人間として心を寄せるのか、それとも国家や権力に都合のいいことを引き出すために、その被害すらも「道具」として利用するのか、ということです。

そして、国家や権力と自分を一体化させずに、自分も国家や権力によって被害者になったり加害者にさせられる一人の人間だと思えば、「白書」の編集者が 5.締めくくりの言葉 で書いたこの一節の意味も響くのではないでしょうか。

韓国と日本の原子爆弾被害者の(ビッグヒットの謝罪に対する)返事を謙虚に受け入れ、私たちはすべてのARMYがこの機会を機に私たちが共有する価値について記憶してほしい。共感、非暴力、そして平和に対する価値についてです。 私たちは、私たち皆が政治に関する話は一方にとどめ、すべての暴力の被害者と共感し、彼らとともにすることを、すべての暴力に対して反対の声を出し、前に進むことを望みます。

これは、ユニセフの#ENDviolenceキャンペーンを支持するBTSのLOVE MYSELFキャンペーンと同じ文脈で行われています。 暴力をなくそうというBTSのメッセージは大きな意味を含んでいます。 我々は「あなた」と「私」という主体と客体の区分から始まる差別が、この社会における偏見と分裂の原因となり、葛藤を引き起こすということに気づくべきです。 これを解決する唯一の方法は「あなた」と「私」が同じだという認識と共感、そして愛です。

 BTSもこの「事件」を通じて学んだのだと思います。その先に彼らのBLMやアジアンヘイトへの「人間としての」言及があるのだと思います。

ナショナリズムは私の中にももちろんあります。でもそれがほかの誰かを排除し、踏みつけていないのか、ARMYという仲間を得た今、改めて顧みていきたいと思います。

 

*この問題に関して、ビッグヒットは公式見解を出し、日韓両国の被爆者団体に謝罪しています。

* 最後に記事紹介。

韓国のリベラル紙「ハンギョレ新聞」の記事が、韓国の「愛国心」を自ら省みています。

japan.hani.co.kr

 日本の記事では、こちらのコラムが問題を俯瞰的に書いていました。

ryukyushimpo.jp