抗議もむなしくずっとHYBEに無視されてきたチョン・バビの件。
しかし11/17に予約が始まった[DIGITAL CODE] BTS PERMISSION TO DANCE ON STAGE in THE US – BTS JAPAN OFFICIAL SHOPに、コンサートでセットリストに入っていたチョン・バビが参加した楽曲(Answer:Love MyselfとHOME)が収録されていないことが分かりました。
こちらに関して韓国ARMYの들ニム@c_andle が、抗議やアクションを続けてきたイルアミに伝えたいとTwitter(X)でスペースを開きました。
私は通訳で参加しましたが、録音がなく聞き逃した方も多かったということで、ご本人に許可を得て、その内容についてこちらにまとめます。
들ニムの言葉は青地にしています。
私の記憶と事前にもらったテキストで再構成したもので、私の理解や解釈が入っていますので、文責はあくまで私です。
ブログのタイトルはらぶさんが提案してくれたハッシュタグからいただきました。
- チョンバビOUT - 微妙だけど祝いましょう
- 3Dが問題視されないのはなぜ?
- 各地のARMYの関心事/BTSの現在の政治的な状況
- 愛することと批判すること
- 他のアミを愛することと、このファンダムのキャラクター
チョンバビOUT - 微妙だけど祝いましょう
スペースのタイトルのなかに入った「祝う」という言葉にひっかかりを感じた方もいたようですが、「微妙な」がついているように、手放しで喜んでいるわけではありません。들ニムご自身も(私もですが)外された曲はいまでも大好きな曲。
デートDVの加害者であるチョン・バビが、私たちARMYの消費で利益を得られなくなったこと自体は小さな勝利であること。そしてこの機会に、ずっと抗議して戦ってくれたイルアミへの感謝を伝えたかった。そしてこのことを記念して覚えておいて、これからの力になれたら、という思いから今回スペースを実施しました。
これは私の意見ですが、HYBE、ビッヒから説明がないのは全然納得していません。
本来はもっと早い段階で、今回の曲を削除した時点でも「性暴力を含むあらゆる暴力に反対する」というステートメントを改めて出すべきだし、そのうえで権利関係がどうなっているかの説明など(難しい部分はあると思いますけど)誠意を持って説明すべきだと思います。
3Dが問題視されないのはなぜ?
ジョングクのシングル「3D」でフィーチャリングしたラッパー、ジャック・ハーロウのラップに「ABG=Asian Baby Girl」という歌詞が入っていて、さらに女性をモノのように並べて数える…という表現があり、イルアミを中心に抗議の声が上がっています。(中心となって動いているアカウント armyspeak_project )
アジア女性が直接的な対象であることもあって、台湾のARMYたちは一緒に抗議していますが、英語圏、特にアメリカでの反応はあまりありません。
その理由としてジャック・ハーロウが有色人種、特にヒップホップとKPOPのファンのなかで大きな比重を占める黒人女性からは好かれている、という点を指摘していました。つまり、その反応の濃淡を考えるには、白人男性、黒人女性、アジア人女性という三者が関わってくるわけです。
ジャックハーロウは白人ラッパーですが、彼のリリックの特徴は「白人男性が黒人女性を美しいと称える歌詞」だそうです。それが、好意的に受けとめられている理由だと。
黒人女性からみると、アメリカでの歴史から、黒人女性は「女性的」な美しさからは疎外された存在として捉えられている。奴隷の歴史から労働に偏った存在という人種的な偏見があるところへ、黒人の「女性的」美しさを語る歌詞に好意的だと。
アメリカのARMYの中にも、彼は有色人種のアライ(連帯者)だと考える人が多い。
でも、アジア女性からすると、あの歌詞は侮辱的だといえます。なぜならアジア女性はずっと過度な性的対象化(hyper-sexualized)される存在として差別されてきたから。そこを深く考えず歌詞に入れたのでしょう。
この解説は私にとっても新たな視点でした。
ABGはまさにアジア女性への過度に性的な眼差しの文脈で出てくる差別的な言葉なのでアウトだけど、その視点がファンダム全体、黒人女性に共有されていない状態だということでしょうか。
同じマイノリティーであっても、歴史的な経緯や社会的な扱われ方が違うと、認識にずれが出てきてしまうということですね。アメリカで黒人とアジア人は特に対立していた部分もあるんですよね。1992年にはロス暴動などもりましたし。なかなか難しい問題です。
各地のARMYの関心事/BTSの現在の政治的な状況
イスラエル政府を支持する企業のボイコット、署名、寄付など活発に行われています。
韓国のARMY、あるいはHYBEに所属するアイドルファンたちは、ENHYPENのカムバックに合わせてコラボしたバスキンロビンス(日本でいうサーティーワンアイスクリーム)のこと。
韓国のバスキンロビンスは製パン会社のSPCという企業の傘下なのですが、この企業が労働災害を繰り返し起こしていると。労働組合を弾圧もしている。
去年はこの企業の工場で、若い女性労働者が製パン機械の事故で亡くなったが、血が残った機械をそのままにしてパンを作り「血に濡れたパン」という悪名が生まれた。 ところで今回のENHYPENプロモーションに「Orange Blood Cake」という名前で血が流れるデザインのケーキが入っています。
それで現在、韓国の若者たちはSPCの製品の不買運動をしているんですが、そんななかでHYBEがコラボしたので非難の的になっています。
それぞれの国や地域でARMYたちが、政治的なアクションを起こしている状況。
次にBTSが現在置かれている状況について、韓国政治の文脈で解説していただきました。
最近BTSから政治的発言が出にくい理由として考えられることは、HYBEが現在の韓国の政権:尹錫悦政権の攻撃のターゲットになっていること。そしてメンバーの一部が軍隊に所属しているか、まもなく軍入隊を控えているため。
現政権のターゲットになっているという話には根拠があって、BTSは尹錫悦大統領の就任式への出席を拒否し、その後ハイブは大々的な税務調査を受けた。
BTSは文在寅・前大統領とは逆に大使として国連に行ったり、彼から勲章を受けるなど良い関係を続けていたため、いつでも攻撃される可能性がある。
ちなみに尹政権は前文大統領の逆張りの政策ばっかり取っているようです。
また最近、シン·ウォンシク国防長官(大臣)が「BTSをどうこうしたり、呼ぶことはないだろう」と発言し、その映像がツイッター内でRTされたが、信用できない。
このあたりの話ですね。ホビが軍主催のイベントの司会として登場するという話が、かなり具体的なところまでいっていたけど、長官の一言で直前にキャンセルされたと。軍のPRに利用されなかったのは良かったと思いましたが、シン長官の意図がどこにあるのか分からず、手放しで喜べるようなことではないようです。
尹政権の長官たちは不正や腐敗が次々明るみになっている。 シン·ウォンシクは長官になる前に、韓国軍の自分の部隊で起きた兵士の死亡事件をもみ消すために、噓の発表をしたことがあります。だから信頼がおけない。
検索するとかなりの問題人物であることがわかります。
愛することと批判すること
スペースでは次のテーマとして、ファンとしてのあり方の話をしてくれました。
ファンであることと、彼らへの批判は両立するのか、どう両立させるのか、という問題ですね。
マイケル·シュア(アメリカの俳優、テレビプロデューサー。ドラマ「グッドプレイス」など)の著書からの言葉を紹介します。
「問題のある人、あるいは何かを愛しすぎたあまり、そこから離れることができなければ、同時に次の2つを考えなければならない。
1. 私はこれが好きだ。
2. これを作った人は問題が多い。1番を忘れると自分自身の一部を失ってしまう。 だからといって2番を考えなければ、それが招いた怒りを否定するわけであり、恐ろしい行動の被害者に共感できない。 この二つを同時に考えなければならない」
自分が好きだという気持ちは大事にしてもいい。これを忘れてしまうことは自分の一部をなくして傷つけてしまうこと。でも同時にその問題の部分を無視してしまって、批判しないとなると、自分の人間性を否定してしまうことになる。難しいけれど、この二つを持ち続けることが大切じゃないでしょうか。
答えがある問題ではないけれど、どちらも持ちたいと思います。
ARMYというのはそもそもBTSを好きだという人たちの集まり。そのなかで彼らの作品について抗議したりするのはすごく大変なことだし、ハレーションも実際起きています。
身近な問題として考えると、たとえば家族、たとえば友人。自分の愛する人でもだめなことはダメだっていうよね…って話かなあと。伝え方とかタイミングとか、いろいろ考えるべき点はあっても基本はそう。というか、愛するが故に批判する場合だってたくさんありますもんね。
他のアミを愛することと、このファンダムのキャラクター
BTSとそのBTSのメンバーに対する気持ちと同時に、このファンダムに属するほかのARMYたちとの関係についても話してくれました。
私は2016年にBTSの歌詞のなかに女性嫌悪的なものがあるという問題で、議論を起こした、当時のキャンペーンに参加しました。
その時、多くのARMYたちに非難も受けましたが、何よりも悲しかったのは一緒に議論に参加したフェミニストのARMYたちが、その非難と戦って傷ついて、このファンダム自体から離れてしまったことです。
そうなるのも当然かも知れない。本当に大変だったから。
でも、私はもっと良心的なARMYたちがここ(ファンダム)に残ってARMY文化を守っていってほしいです。 そして他のARMYたちに私の考えを説明して分かってもらいたい思います。
そうするには、他のARMYたちのことも愛さなければいけない。愛さないと不可能なことです。
ファンじゃない人ははBTSが「ARMY愛してる」といっても、それは ただお金を稼ぐために言ってることだし、好きなふりをしているだけだと言います。
でもARMYはそれは彼らの本心だと感じられるじゃないですか?
彼らが私と100%同じ考えではないことは分かっている。だけど本当に愛しているということ。彼らはまるで家族や、大切な友達のような感覚です。
そんなBTSへの広い愛と同じことを、他のARMYにも持ってみましょう。
ARMYの間でフェミニズムを語るのは、私の責任というわけではありません。 誰にも責任はないし、そんな責任者はそもそもいないですよね。 でも、私はそれが自分の責任であるかのように大切に思っています。 それだけ私はBTS以上にARMYたちを愛しています。
ARMYというのは、不特定多数の個人が集まった集団ですが、それでも私たちにはARMYのキャラクター、ファンダムのキャラクターというのがあると思います。
私が考えるARMYたちのキャラクターは、ダイナミックで、意欲的で、進歩的。そして周りを変化させる力を持っています。これからもARMYはそういうキャラクターでいて欲しいし、そういう性格をこれからもつないでいって欲しい。
辛い時もあると思いますが、引き続き好きなことをやっていきましょう。
すごく素敵なエール。ARMYは個々人の集まりだけども、その求心点はBTSなわけで、そのBTSのキャラクターというのが当然ファンダムに影響を与えていると感じます。
これは別の機会に聞いた話ですが、かつてはアンダードッグだったBTSが、グローバルスターになり「BTSは国の誇り」という扱いをされるようになった分、韓国のARMYも以前と比べて保守的なファンの絶対数がも増えたらしいです。
それでもARMYたちの「ダイナミックで意欲的で、進歩的」なところこそコアだと考えて、そんなアミの一人になりたいと思います。