はちみつと焼酎

BTS 방탄소년단/SUGA. 日本語訳など

RMの線/RollingStone Korea チェ・イサクさんコラム日本語訳


rollingstone.co.kr

コラムニストのチェ・イサクさん(@isakchoi312 )のコラムです。

 

RMの線

 

K

RMは現在、Kポップシーンで最も興味深く、影響力のある人だ。 関心と影響力を同時に持つことは非常に難しい。 彼はこのシーンの地形を作った征服者であり、突出してシーンを揺るがす挑戦者でもある。

 9月6日「フリーズソウル」ウィークの初日、リウム美術館の「カン·ソギョン:柳のドラムとウグイス」展のオープニングセレモニーにメインゲストとして参加したRMの姿に、彼を見守ってきた人々は、期待と緊張で唾を飲み込んだ。

修行者のような坊主頭に、厳密な美学で織り込まれたボッテガ・ヴェネタのコレクションを羽織った彼は、シルクのようなラグジュアリーさとピックアップトラックの排気音のようにラフな固有の魅力を輝かせた。 しかし、その瞬間がスパークを起こした本当の理由は別にある。

 

Kポップは根っこがないように見える。 シティポップの明るくて虚しい高調感と熱狂的ラテンリズム、フロムクイーンとレディー・マーマレード、ヨロ(YOLO)とカルマ(Karma)が一つのアルバムに盛り込まれている。 そして、この軸がないことを原動力に、KPOPは走っていく。 貪欲に吸収し、絡まり、狙い澄まして。

RMはTikTokのように短く騒がしく見えるKポップの流行から、文化を発掘する。 彼はシャルル・ボードレールが<現代生活の画家>で現代性を定義しながら説明した「流行のなかに含まれる詩的なものを取り出すこと、一時的なものから永遠なものを引き出すこと」をする。 

韓半島の激動の歴史と激しいKポップ産業の現在をつなぎ、「K」をレッテルではなく「(韓国文化の偉大さを知らせようと努力した)先人たちが戦って成し遂げたプレミアムマーク」と定義する。
韓国文化に対するRMの誇りは時代と共鳴し、「最も韓国的なことが最も世界的なのか?」という今更な話題を投げかける。 「K」の興行で新しく火が着いたこの議論の地平は、RMが開いたと言っても過言ではない。

 

RMは「高い文化の力」を作る。 韓国文化の優秀性を全世界に知らせてほしいと、海外韓国文化遺産保存と交流事業を行う「国外所在文化財財団」に継続的に寄付し、朝鮮戦争の戦死者の遺骨発掘報勲事業を行う、国防部の「遺骨発掘鑑識団」広報大使としても活動する。 RMは自分の影響力で歴史の根っこに肥料を一スコップ加え、韓国文化をより鬱蒼と育てるのに手を貸す。

 最近の音楽的行動も、一脈相通じる。 彼は個人活動が中心のBTSの「チャプター2」が始まって以来、ファン・ソユン、ポール・ブランコ、バーミングタイガーなどソウルのヒップ(Hip)を代表する若いアーティストたちと情熱的にコレボレーションし、アイドル音楽として狭く解釈されているKポップの境界を崩し、地平を広げている。

 

「カン・ソギョン展」のオープニングセレモニーでRMの姿が印象的だった理由は、彼の現在を象徴的に表わしていたためだ。 韓国文化界の現代的な精髄を見せてくれるフリーズソウルウィークの初日、数多くの国宝を所蔵する、権威の高い美術館のエッセンスと能力を展示する場で、話題の頂点に立ったということ。 名声と気迫、同時代性と軌跡を持つこの若いミュージシャンの登場は、その場をざわめかせ、動揺させた。

 

新しい文化は、その時代の最も大胆な芸術家の一筆の線から始まる。 RMは熱くて力強い自分だけの線で、同時代の文化の版図をリードしている。 「私は、我が国が世界で最も美しい国になることを願う。 (…)ただ限りなく欲しいのは、高い文化の力だ」と、白凡・金九先生が「私の願い」で語った「最も美しい国」を夢見て。

 

Untitled

2023年8月6日、RMが舞台に上がった。 派手さのないミニマルな衣装で、街灯のようなスポットライトの下に立っている彼は、自由で巨大に見えた。

Agust Dワールドツアー、待望のファイナルコンサートのゲストとして、約1年ぶりに大きなステージに立ったRMは、震える手で「You don't have to be(そうしなくてもいい)」と息遣いのようにハミングする新曲を発表した。

彼の声には熾烈で空虚な日常から、ある日ふと見上げた空にめまいを覚えるようなノスタルジアが染みこんでいた。

 

入隊前の最後の公演のフィナーレとしてRMが選んだこの歌には、タイトルがない。 いや、タイトルさえない。 トンボの羽ばたきのように透明で明るいこの歌は、しかし彼の音楽的年代記を集約的に盛り込んでいる。

正規ソロとしてのファーストアルバム「INDIGO」(2022)のタイトル曲「Wild Flower」の「この欲をどうか持って行ってください、どんなことがあっても私を私にさせてください」という凄絶な祈り、収録「Still Life」で自身の人生をキャンバスの中に剥製された静物と比べた生々しい失意から一歩踏み出し、数多くの「タイトル」に縛られた自らに救いの手を差し伸べる。

表題作である「Yun」から引用した、ユン・ヒョングン画伯が、人間の目的だと定義した「天真無垢な世界」に一緒に行こうというようだ。

RMの線は、そうやって伸びる。 すべての強烈なものがそうであるように、深い跡と震えを残して。