はちみつと焼酎

BTS 방탄소년단/SUGA. 日本語訳など

ハイブ、パン・シヒョクのK-POPからの「K外し」は、BTSファンとでは全く違う/記事日本語訳

いったいハイブはどこへ向かっているのか…?ということでこちら訳しました。(2024.1月の記事)

筆者は「BTSとARMY」のイ・ジヘンさん。脚注はブログ主(honeysoju)が入れました。

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ハイブ、パン・シヒョクのK-POPからの「K外し」は、BTSファンとでは全く違う

K-POPからKを外すとしたら?

イ·ジヘン東亜大学ジェンダー·アフェクト研究所専任研究員

最近になって、ハイブのバン・シヒョク議長は、K-POPからKを外すべきだという考えを、各種メディアを通じて繰り返し明らかにしている*1。 これは最近、K-POPの成長傾向が鈍化したという指標によって引き起こされた危機意識から始まったものと見られる。 昨年、マスコミとのインタビューで彼が使った表現は、このような危機意識を傍証する。

 「K-POPはこれからもっと広い市場でもっと広い消費者層にアプローチしなければならない」 「Kのアイデンティティを固守していくことは、成長鈍化という危機的状況を解消するのに全く役に立たない」「私たちがグローバルな普遍的価値に接近できる出口と入口を多く作らなければならないと考える」

「グローバルな普遍的価値」の正体

パン・シヒョク議長の発言が意味することは「グローバルな普遍的価値に接近」するためにはKという接頭辞をK-POPから取り外さなければならないということだ。

接頭辞Kの用例は様々である。 まず、K-POP、Kドラマ、Kリーグのように国家間の体系を識別する記号として使われる。 K-POPやKドラマの場合、単なる国家表記機能を越え、コンテンツの受信者の間では一種の文化的ブランドとしての価値を獲得する。 また、既存の韓流コンテンツの潮流から一歩進んだ、新韓流の局面を示すKビューティー、Kフード、K文学のような命名が存在する。

その一方で、K防疫、K国防、K医療のように、民族主義愛国主義のフレームと新たに結合し、過熱した集団主義の性格を現わしたりもする。 さらには、K長女、K会社員、K不正のように、韓国社会の矛盾を自嘲するためにKが動員されたりもする。

 このように接頭辞Kは修飾する対象に固定された意味を付与するというよりは、文脈と使われ方によって数多くの意味を持つようになる。

このうち、パン・シヒョク議長が克服しようとするK-POPのKは、おそらく国家の識別記号としてのKだろう。 もっと正確に言えば、英米圏の大衆音楽を指す用語である「ポップ」にあえてKをつけることで、メインストリームとははっきりと区別されてしまう「韓国大衆音楽」としてのK-POPだろう。

 「あの」BTSさえ何度もグラミーのポップカテゴリー候補に上がるも受賞には失敗したのは、KPOPをポップと認めたがらない西欧音楽産業の保守性を反映していると見る見方もある。 また、彼が克服したいKは普遍的ではないサブカルチャー好みの消費者たちがコアファンダムになって押し進める「産業」としてのKPOPだろう。

K-POPが「グローバルな普遍的価値」を追求しなければならないという彼の信念は、ジョングクとTOMORROW X TOGETHERの最近の音楽に込められた非常に「西欧的な」(あるいはパン議長の言葉によれば「普遍的な」)サウンドで現実化される。 彼が追求する「グローバルな普遍」はK-POPが「ポップ」の中に収容されること、それによってさらに多くの西欧大衆が流入し、結果的にK-POPコアファンダムの席を伝統的「リスナー」たちが満たす姿だ。

「普遍性」が結局ヘゲモニーにともなう権力の結果という点を思い起こした時、バン議長が追求する普遍はすなわち「西欧的普遍」を意味する。

コアファンダムがさらに搾り取られる現在の逆説

産業的側面から見た時、強力で没入度の高い消費を見せるコアファンダムが押していく市場に限界があるという彼の悩みは、いわゆる「ファンダム効果」が「大衆」に勝てないという俗説ともつながっている。 しかし、音楽だけを聞く10人のライトなファンよりは、アルバムとグッズを購入し、公演を見る1人の忠誠度の高いコアファンが音楽産業の売上にさらに役立つと話す専門家もいる。

これは音楽産業だけでなく、ゲーム産業でも同じだ。 スマートフォンさえあれば誰でも軽くプレイできるモバイルゲームが急成長した状況でも、韓国ゲーム業界に収益を保障してくれるからと大事に扱われる利用者はハードコアゲーマー(ゲーム没入度が高くゲームに時間とお金を多く使う人)であって、カジュアルゲーマー(ゲームに大きく没頭せずに時間がある時にささやかにプレイする人)ではない。 ゲーム会社が男性の多いコミュニティ発の「フェミ思想検証」に同調して、ゲーム業界の女性労働者の契約を解約するなど強力な措置を取る*2のも、ハードゲーマーの大多数を占める男性利用者を意識した結果だ。

反面、「ライトなファンダムが増える構造に変えるべきだ」と主張するハイブが実際に行っている利益追求は、コアファンダムから最大限の消費を誘導する方向に向かっている。

ハイブは昨年6月、アーティストとファン間のプライベートメッセージシステムであるWeverse DMをローンチし、一部アーティストとのコミュニケーションを有料化した。 また、昨年4月にはBTSメンバーSUGAの米国コンサートに価格変動制、別名「ダイナミックフライシング」を適用した。 40万ウォン台のチケットが100万ウォン以上に値するなど、同政策はコアファンの激しい反発に直面した。

ダイナミックプライシングはリアルタイム需要に応じて、まるで競売するようにチケット価格が上昇するシステムだ。 供給より需要が多ければ定価より高く、その反対なら低く策定される原理だが、人気のあるアーティスト公演で常に激しいチケット戦争が繰り広げられる実情を勘案すると、ただ「チケット価格を高める姑息な手」として使われているというのがファンの指摘だ。

 

ファンにとってK-POPアイデンティティは何か

今日、K-POPがグローバルな流行であり、一つの「現象」として注目される理由のうち、大きな割合を占めるのはまさにファンの独特な受容のあり方だ。 ファンはアーティストの成長物語に自らを投射して泣き笑いし、アーティストの失敗と変化、そして業界の不条理に怒って冷淡に背を向けながらも、何度も無条件にそのすべてを抱きしめる。

K-POPアーティストとファンの間に流れるこのような情緒的な強烈さと、ここから派生して出てくるファンの集団的実践は、同時代のどのファンダムでも例を見つけることができないほど独特で、広範囲に行われる。 自身が支持するアーティストの成功を越え、持続可能な未来と政治的不正を転覆するための集団的動きを見せるK-POPファンダムに向かって、西欧メディアが「いったいなぜK-POPファンダムがブラジルと米国の大統領選挙に介入するのか?」と尋ねる笑えない状況が起きたりもする。

K-POPファンダムという名前の下に集まった多様な個人たちは、ファンになってから以前には知らなかった無数の社会的偏見と差別を経験するようになったと話す。 年配のファンは「どうして幼い男性/女性アイドルが好きなのか」と軽蔑され、西欧のファンは「どうしてよりによってアジア歌手が好きなのか」と嘲笑される。 韓国と歴史的緊張関係に置かれた国のファンは、両国間の国家的事案が発生する度に、自分の好みを隠したまま息を殺さなければならず、甚だしくは保守的な宗教色彩を帯びた一部のアジア圏の国のファンは、堕落した文化に追従するとしてテロに遭うこともある。

自分が属している関係と社会の中で、非主流として扱われるこのような経験が積もれば、本人も知らないうちに一種の少数者意識を身をもって実体化することになる。 この時、ファンダムは単純なファンの集合ではなく、同質感を共有した彼らの固い結集体に変わることになる。 K-POPファンダムの格別な共同体意識と集団的実践は、まさにこのような少数者的な同質感による結集から由来すると見ることができる。 この時、彼らにとってK-POPのKは単に韓国という記号または音楽的様式を意味するだけでなく、主流から排斥される「周辺性」の象徴のようなものになる。

逆説的だが、むしろファンがKを不満に思う場合が起きることもある。 BTSファンたちは最近、西欧の音楽授賞式が、別枠のK-POPカテゴリーを作って賞を授与することに反発し、カテゴリー新設の意図を問題視した。 西欧の授賞式のこのような行為がKPOPの周辺性を強調し、西欧ポップの支配力を強固にするという指摘だった。 この時、「Kを外せ」というファンの要求とバン議長の望みは同じに見えるが、本音は全く違う。 パン議長の目標は、K-POPを西欧ポップと区別されないようにすることで、結果的に西欧リスナーを流入させることだが、ファンは「優遇するふりをして差別する」西欧の授賞式の陰険な権力のあり方に抵抗するためなのだ。

したがって、K-POPからKを外すか付けるかは、それ自体で意味を持つわけではない。 重要なことは、どのような価値を守ることに同意するかだ。

相変わらずの西欧中心の文化的秩序の中で、K-POPが「西欧的普遍」という価値を転覆し、文化につながったグローバルな共同体に対する新しい代案的想像を可能にするならば、それまでKを付けても外してもファンにはそれほど重要な問題ではないだろうからだ。

 

*1:例えばこちらの講演を参照:KPOPの危機は「今から対処すべき」 - YouTube

*2:韓国ゲーム業界の「フェミ検証」については、こちらのブログに詳しい:韓国で発生している「手の形」が男性嫌悪(男性器が小さい)を示しているという騒動の歴史的背景 - 電脳塵芥