昨年のDynamiteで初の一位、グラミーへのノミネート&単独パフォーマンス、米Rolling Stonesが初めてアジア人アーティストを表紙に起用、そしてビルボードHOT100の5週連続1位!…とBTSの快進撃は止まりません。RS誌の表紙には「BTS 世界を変えるチェンジメーカー」。煽りコピーに相応しいです。
そんななか、タイムリーに『K-POP新感覚のメディア』の著者、金成玟さんのウェビナー「K-POPとは何か」に参加しました。おおまかな内容と感想を備忘録としておいておきます。
「K」と「POP」と「-」
まずはK-POPというとき、韓国のKと、グローバルなカルチャー・音楽ジャンルとしてのPOP、そしてそれをつなぐハイフンに込められた意味を、それぞれ分けて考える必要があるという話から。
K=韓国の歴史的な経験を見ると…
- 80年代後半 民主化で文化に関しても国の統制がなくなっていく
- 90年代 ソウルという都市の再編・OECD加入で先進国へ、一方でIMF危機
- 00年代 情報化・韓流ブームにより内外の変化
- 10年代 デジタル化
- 20年代 パンデミック・Netflix
対応するアメリカのPOPの流れは…
- 50年代 ロックンロールの時代 プレスリー
- 60 ブリティッシュ・インヴェイジョン ビートルズ
- 80 MTV マイケル・ジャクソン
- 10 ソーシャルメディア レディー・ガガ
- 20 デジタル・プラットフォーム BTS
「ー」対アメリカという他者
そしてその間の「ー(ハイフン)」でお互いの関係を見る必要があって、K-POPは韓国は対アメリカとの関係で拡張されてきたといいます。
- 80年代後半 民主化で若者文化、韓国語ラップの登場
- 90年代 ソ・テジ 日本型フォーマットのアイドルから発展したアイドルグループ(H.O.T)登場
- 00年代 BoA BigBang 東方神起… 対ファンダム戦略、契約などのシステム化
- 10年代 2ne1 PSY EXO TWICE…YOUTUBE、オーディション…欧米のファンが発見し批評
- 20年代 欧米の音楽のメインストリームに
ここで面白かったのは、日本も韓国も「アメリカ」が圧倒的な他者として常にあって、それをどう取り込み克服するかの歴史だったけれど、韓国ではある意味で日本以上にアメリカの持つ意味が大きかったこと、そして実は対アメリカと同時に「日本」も克服すべき他者として歩んで来たというところでした。
音楽・産業・社会のトライアングルとして
K-POPは音楽という頂点とともに、産業・社会という頂点を持つ 三角形のバランスを見ないと行けない、という話。歴史の垂直的な流れとともに、水平の構造で見るイメージでしょうか。
そもそものPOP=ポピュラー音楽自体がただの純粋な音楽ではなく、人々の欲望などを大いに反映した社会を背景とした産業であるということ。だから「K-POPとは何か」を議論するときは、音楽の側面と同時に、お金の話やインターネットなどの技術の話を議論すべきものであると。
この、K-POPを単なる音楽ジャンルとして見るべきではないという話は、もはや共通認識になったのかもしれません。RS誌にもこうありました。
BTSが2020年代のグローバルなポップミュージックの中心になるというのは、音楽的な周到さだけが理由ではない。ポップカルチャーとはアートと産業の複合体。BTSは産業面から見ても重要な転換期の中心にいる。
Roling Stone Japan vol.15 「POP RULES THE WORLD」
金さんはまた、もう一つのトライアングル、グローバル・ローカル・ナショナルについても話していました。
こちらは国策としてK-POPの繁栄があったという説に対して、ある部分はそうだけど、それだけではないという話で、民主化によって国家と対等な力を持つ「社会」が韓国で浮上することによった恩恵として、いまの成功があるということでした。
そもそもその間、韓国は2度ほど政権交代があり、政策が変わったにもかかわらずK-POP(映画やドラマも)が成長してきたんですもんね。
ローカルに関しては、ソウルという都市のあり方がキーであるということを話していたんですが、ちょっとここは私の知識不足もあって消化不良です。
K-POPアーティストや事務所、社会的な出来事などなどを含めた話は、金さんが日経に連載した記事でも書かれています。
いまいる位置への自覚とやるべきこと
ここからは金さんのウェビナーを聞いたいちARMYとしてK-POPのなかでのBTSの場所について考えました。
韓国の歴史的な蓄積、産業界、社会の動きなどがあっての現在地。
そのうえで、その位置にいるのがほかのどのアイドルでもアーティストでもないBTSだったというのが、奇跡的であると同時にものすごく納得するんですよね。
産業としてのK-POPというのを聞いて真っ先に思い出したのが、Butterのリリース会見でのRMの言葉でした。
K-POPは音楽のジャンルというより産業のようなカテゴリーに拡大されたんじゃないかと思います。自分たちがK-POPに入るのかどうかについてはお話できませんが、僕たちがBTSとして最善をつくした後に、記者や評論家の方が評価していただくものだと思います。
RS誌のインタビューではこんな風に言ってます。
僕たちは東西という2つの要素を融合して、まったく新しいジャンルを生み出しました。それを“K-POP”と呼ぶ人もいれば、“BTS”と呼ぶ人もいるでしょうし、東西の融合による“ハイブリッド・ミュージック”と呼ぶ人もいるでしょう。いずれにしても、それが僕たちのしていることなんです。昔のシルクロードについて考えてみると、東洋と西洋の人々が交わる巨大な交差点のようなイメージがありますよね。そこでは、いろんな品物が売買されていたかもしれません。こうした歴史は繰り返されると思いますし、何らかの新しくて興味深い現象が起きようとしているんです。大きな変化の中心にいることができて、とても光栄に思っています。
Rolling Stone「RMが語るK-POPの定義、BTSと自分自身のアイデンティティ」
プレイヤーであるアーティスト自身が、自分たちの音楽には、産業としてのK-POPという側面があること、シルクロードという言葉で歴史と文化の交差点に自分たちがいるという自覚があるということが、やっぱりほかのどのアイドルやアーティストでもなく彼らじゃなくてはいけなかったんじゃないか、と思わされます。
そしてそんな俯瞰的な視点を持ちつつも、彼らは自分たちがいまやるべきことについて寄り道をしていないのがすごい。
RMとともに「俯瞰的な視点」を持っているのはSUGAもだと思います。彼はそもそも裏方志向で、
このぐらいだったら僕は歌手人生が終わると思っていたんです。特にアイドルの寿命は長くありませんし。音楽番組で1位、単独コンサートぐらいしたら、僕の歌手人生は終わって、プロデューサー人生があるだろうといつも思ってたんです。
そんな彼がいまや
降りてくるその瞬間まで、そのままずっとステージに立っていたい
BTS X 유 퀴즈 온 더 블럭
ですからね。ファンとしては最後まで伴走して、時代の一部になりたいと思います。