はちみつと焼酎

BTS 방탄소년단/SUGA. 日本語訳など

「BTSラッパーの3部作の最終章は、教訓と解放に満ちている」NME Agust D D-DAYレビュー


www.nme.com

最初のリリースから7年、SUGAは社会への言及と個人的な考察で、彼のソロワークのこの章に終止符を打つ。
★★★★★
By Rhian Daly 21st April 2023

 

BTSのSUGAことAgust Dは、ソロ名義での初のスタジオ・アルバムの冒頭で、ラッパーのソロ作品にはあまりないムードを醸し出す。「D-Day is coming, it's a fucking good day 」と、彼はリフレインで宣言した後に告げる。「Future's gonna be OK / OK, OK, look at the mirror and I see no pain 」。ここでは、彼はほとんど喜びの声をあげているようだ。まるでこの満足感が天啓であるかのように。

それはそうだ。2016年に別名でデビューミックステープをリリースして以来、BTS以外のSUGAの作品は、典型的には怒りと結びついてきたーーたとえ、特に2020年の「D-2」ではそれ以上のものが常にあったとしても。

しかし「D-DAY」のバックボーンは解放のアイデアであり、このレコードでは、彼が昔の辛辣な感情から大きく前進し、自分自身を自由にし、賢明な社会評論家、そして時には保護者の役割に完全に踏み込んでいる。

 

Agust Dの昔の怒りは沸点に達して蒸発したのかもしれないが、だからといって「D-DAY」が虹とお日様ばかりというわけではなく、彼の世界観を共有している。

「Polar Night」のソフトな闊歩で、彼は社会を引き裂く分裂性を取り上げ、同胞に対して取る正義の態度の欠陥を指摘する。

「同じ側にいないなら、僕たちは敵だ 」と彼は観察する。「極端な選択/自分に都合がいいときはポリティカル・コレクトネス/でも自分にとって面倒なときは口をつぐむ/選択的に偽善的な、不快な態度」。詩が進むにつれて、彼の声の軽蔑も大きくなっていく。

「Haegeum」のタイトルは、全体に織り込まれた伝統的な弦楽器と、韓国語の「解放」を意味するもので、彼はオンラインや現実世界に散らばる「ナンセンス」を捨て、新しい自由を見出すことを主張する。「表現の自由は/誰かの死の理由となりうる」と、彼は鋭く語る。「それでも自由と言えるのか?」

 

BTSのバンドメイトであるJ-hopeをフィーチャーした曲「HUH?!」は、陰のあるドリルを基本に描かれているが、Agust Dの古い怒りが再び沸騰し始める。「俺の何を知っているんだ?」SUGAは求める。「俺のことを知ってると思ってるなんてクソくらえだ 」と。

しかし、それはただ怒りのための怒りではなく、誤解に立ち向かう彼の姿は、曲の後半で彼の観察にリンクしていく。 「何百万もの報道とゴシップ、この情報化時代の悪役」。

 

「D-DAY」はある種の感情からの解放を表現しながらも、それ以上に、過去や未来、つまり時代や起こったこと、これから起こることに支配されることからの解放を表している。「過去は去り、未来は遠い」とSUGAは言う。「あなたは何を恐れているんだ?

このテーマは、エンディングの「Life Goes On」ではあまり明確には語られず、昔の思い出話によってもたらされる、恐れの細やかな感情を描く。しかし、その恐怖に支配されるのではなく、それがどんなものかを彼は知っているーー無害な幽霊にすぎず過去の人生の残滓であることを。

 

このアルバムの代表曲「AMYGDALA」は、母親の心臓手術、肩の怪我、父親の肝臓癌など、SUGAの最も辛い瞬間を掘り起こしたものだ。「この苦しみは自分のためにあるのだろうか」と、濁ったロックリフと切れのあるビートに乗って問いかけ、トラウマが自分をよりたくましく生まれ変わらせることを示唆する。「僕を殺さなかったものは、僕を強くしただけだ/僕は今、蓮の花のように咲いている」。

「AMYGDALA」は、そのテーマから予想されるように、実に心が痛い曲だ。サビでミュージシャンは、トラウマを処理する脳の部分に対して、「僕の扁桃体/僕を救ってくれ、僕を救ってくれ/僕の扁桃体/僕を引き上げてくれ、僕を引き上げてくれ」と感動的な訴えをする。その際、彼の声は生々しく荒々しくなり、オートチューンの層が感情のひび割れを助長するだけだ。

 

「D-DAY」は、彼が何年もかけて変化してきたにもかかわらず、全体として、SUGA、あるいはAgust D独特の雰囲気を醸し出している。このアルバムに登場するコラボレーターの数々は、それを邪魔するものではなく、むしろ彼を引き立てている。

「HUH?!」では、J-hopeが威嚇的な囁きに近い声に落とし、バンドメイトの切迫した歌声に新たなダイナミクスを与えている。最終曲「Snooze」では、The RoseのWoosungと伝説的な作曲家である故・坂本龍一という、2人の新しいクリエイターが参加している。坂本龍一の安定した痛烈なピアノに乗せ、Woosungのベルベットの声が、SUGAの歌詞にある優しく心地よいメッセージを引き出している。

 

雰囲気たっぷりのインストゥルメンタル(「Interlude : Dawn」)から滑らかなグルーヴの「SDL」まで、豊かで多彩なアルバム。「D-DAY」のAgust Dは、止められない、示唆に富んだ力で、3部作を最高の形でまとめ上げている。

これらの曲は、現代の試練を乗り越えるために、教師として、あるいは暗闇を切り抜ける味方として、私たちを導いてくれるものだ。「Polar Night」で彼が言うように、「世界はでたらめだけど、あなたはそうである必要はない/だから目を開けて本当の世界を見よう」。