はちみつと焼酎

BTS 방탄소년단/SUGA. 日本語訳など

SUGAのD-DAYと「私の解放日誌」

2月のツアー予告から始まり、4月のアルバムとツアーのSUGA/Agust Dのソロ活動を並走してきて、このブログではアーカイブを日々更新、最後はソウルでのFINALの三日間に参加してきました。

アルバムからドキュメンタリー、コンサート、プロモーション…最後にはタトゥーのお披露目まで、ユンギのプロデューサーとしての手腕が最大限発揮された緻密なものでしたが、最後は数万のARMYとともに、全部をさらけ出してのパフォーマンスを一緒に体感できて、私もほぼ燃え尽きてます…。この熱が冷めないうちに、今回のソロ活動が彼にとってどういうことだったのか。本人がインスパイアされたというドラマ「私の解放日誌」を絡めて、いろいろ考えてみたものを記録しておきます。あくまで個人的な想像と妄想と解釈ですのでご了承ください。

 

 


「心の解放」がテーマ

アルバム発売直後に発表されたRollingStone 誌のインタビューで、「私の解放日誌」というドラマについてユンギが言及しました。アルバムとドラマのテーマがマッチしていると。

アルバムのテーマは、"解放 "です。あなたにとって、"解放 "とは?
過去に、そのテーマの意味を考え、レコーディングする過程で自分の思いがすでに解決していることがわかったんです。
『私の解放日誌』(2022年~)というKドラマがあったんですが、これがすごく良かったんです。このアルバムは3年前から作り始めていたのですが、そのとき、ドラマのテーマとすごくマッチしていることに気がつきました。人々が「解放」というテーマについて、もっと多くの物語や議論を求めていることを感じ、期待したのです。

honeysoju.hatenablog.com

ドラマは公開時に見て、すごく良いなと思っていたし、アルバムタイトル曲は「解禁」。言われてみればなるほどなのですが、あのハードなMVとこのドラマの世界観がつながるとはまったく思っていませんでした。

youtu.be


さらに、半ば「公式」と言えるWeverse Magazineのワールドツアーリポートの副タイトルも「SUGA、Agust D、ミン・ユンギの解放日誌」でした。

magazine.weverse.io

この記事はワールドツアーが終わった後のまとめとして、そしてFINALの前に出ています。ネタバレとしてのツアーの解説と、最後のFINALはそうやって見てくれということですよね。
これは、「解放日誌」はD-DAYと相当リンクしているらしいということで、FINALの前に、二度目の鑑賞をしました。

youtu.be


(ここからネタバレあります)

ドラマの紹介文を引用すると、「退屈な生活から抜け出したいヨム・チャンヒら3人の兄妹が、自由と生きがいを求めて奮闘する姿を描く。」というもの。

まずすごく平和な、(姉と兄のおしゃべりはうるさいけど)畑だとか電車の通勤だとか、オフィスとか、居酒屋とか…そんな場面が続きます。

主人公は末っ子のミジョン。家でも会社でもおとなしくて、同僚たちの質問をあいまいにかわして微笑んでいる。家では押しの強い姉と兄に比べてむっつり黙って親の手伝いをしている。そんな女性。

非正規職で、上司からは(ほんのり同僚からも)軽んじられていて、仕事を何度もやり直させられる。同僚男性からは「確かに顔は可愛いけど、魅力がない」なんて言われてる。で、その陰口を聞いてしまったミジョンはモノローグで「どいつもこいつも…」と、内にはいろいろ秘めていることが分かります。

このミジョンをはじめとする兄のチャンヒ、姉のギジョンの三兄妹と、謎の男「ク氏」がそれぞれ抱えているモヤモヤ、不自由さからの「解放」がテーマになっていきます。

Haeguemの歌詞は「自らかけている枷からの解放」について語っていて、確かにドラマ登場人物それぞれの「心の解放」と重なってるなと。あんな激しい曲で、ノワール風なMVだけど、中身はこんな風に静かなテンションなのでしょう。


추앙 アーティストとファンの関係

韓国の親戚によると、かなり話題になったドラマだということで、ユンギが最後までしっかりこのドラマを見たのか、タイトルとあらすじみたいなのだけで「テーマ」が通じると思ったのかは分からないですが、改めて見直すと、今回のソロ活を通じてユンギが目指したことが見えてきたような気がします。

추앙という言葉がこのドラマのポイントで、ネット辞書によると「あがめ慕うこと」。漢字だと推仰。(親戚情報だと、この言葉が登場した回から視聴率がぐっと上がったらしい。で、その親戚は後追いで見始めて、初めてドラマを徹夜して見たと)

主人公のミジョンは、父親の工場と畑を手伝っている、無口で、仕事以外は酒ばかり飲んでいる、いかにも訳ありな名前も明かさない「ク」氏に、自分を추앙しろ、と言います。

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周りにいる人間はクズ(ケ―セッキ)ばっかりで一度も満たされたことがないと感じている自分には、「愛」じゃ足りないのだと。(このドラマ、おとなしそうなミジョンがAgust Dでおなじみの욕소리を吐くところも楽しい)

で、いろいろあってその気になったク氏が、ミジョンに「추앙って具体的に何するんだよ」と聞くと、ミジョンは「ただその人を応援するんだ」と答えるのです。

応援すること。あなたはなんだってできる、全部上手くいく。そう応援すること

この台詞、私はユンギ、ユンギと考えながら見てたので、これはそのまま誰かのファンになるってことじゃないか…と思いました。

「あがめ慕うこと。応援すること」

そして「大丈夫、きっと上手く行く」というのは、Snoozeでユンギが後輩たちに送っているエールであり、彼が言って欲しかったフレーズではないですか。

で、その추앙は「愛」よりも強烈に誰かを満たすことができるものなんだと、このドラマは言うわけです。

この場面の後、ミジョンもク氏について「추앙する」という言葉ではないけれど、同じようなことを言います。

一度作ってみようかと思って。そういう人。

相手がどうしたこうしたってことにつられて、自分もああだこうだと思わないで、ただずっと好きでいようと思うんです。方向性なしで人の相手をするより、よっぽどましじゃないかって。

これからは別の生き方をしてみたいんです。

ARMYとバンタンはこうありたいね、ってRMやSUGAが言ってることを思い出します。お互い応援し合う関係。ただ好きでいること。平行線の関係。同伴者。

ク氏はミジョンに「お前は自分の価値が分かってない。お前は俺を怖がらせるほどすごいやつだ」と言い、ミジョンはク氏の過去を聞かず、アドバイスみたいなことはせず、ただ自分が考えていることを話す。再会後、暖房の効かない部屋にヒーターを届けたりもする。そうやって「応援」し合うのです。

「俺もお前の周りのクズの一人か」と聞くク氏に、ミジョンは「あなたは聖域だから」って言うんだけど、「聖域」とか完全にそれオタク…推しのことじゃん…。

そして、ク氏がミジョンにとって聖域である理由が、ミジョンがやけくそになってまさに自分が一番だめになりそうなときに電話がかかってきて、救われたからだと。

ソウルに戻っていたク氏は、ミジョンの事情を知っていたわけではなく、まったく自分のタイミングで電話しただけなんですが、それが奇跡的なタイミングだったんです。

「あなたが必要とするときにBTSはやってくる」という言葉を思い浮かべました。

 

彼らは解放されたのか

タイトルの「解放日誌」が何かというと、ミジョンの会社は福利厚生の一環として社員のクラブ活動を推奨しているんですが、ミジョン始めはみ出し者3人はどこにも入っていないんです。会社からしつこくどこかに入れと言われるのに嫌気がさして、3人が作った「解放クラブ」でつけていたノートのことです。

最後、解放クラブの4人(途中1人増えた)で、「私たちは解放されたんだろうか」について話します。

1人が「どうかな、自分の何が問題かがわかっただけかも」と言うと、ミジョンが「でも、それが全てかも。自分の何が問題なのか知ること」と返します。

それってAgust Dというオルターエゴを通じてユンギがずっとしてきたことであり、AMYGDALAではしっかり取り組んだこと。自分が囚われているものを見つめること。

AMYGDALAは「気分はどうだい」「記憶への旅行」というようにトラウマの心理療法がモチーフになっていて、「自分の何が問題か」を見つめる曲なんですよね。

解放のためにはそこを知る必要があって、ある意味でそれが全てだと。

そして、ドラマを見ると「解放」というのは「はいここからオールOK」ってことじゃなく、たぶん行ったり来たりなんだと思います。それでも、それぞれの登場人物が、少しずつ解放されていってることがドラマで伝わってくる。
(ミジョンの兄と姉、友人たちのエピソードもそれぞれすごく良いのでぜひ)

ミジョンはどんな風に解放されたのか。

ミジョンの周りのケーセッキの中でも最大級のクズだった、金を返さない元恋人の先輩。その彼に対してミジョンは「もし再会しても、お金を返して欲しくない。ずっとクズでいて、そいつを一生憎んでいたい。だってそうじゃないと自分の情けなさを直視しなくちゃならない。それは嫌だ」(大意)と言います。

でも「ずっと憎み続けたい」と口に出した時点で、自分の問題だってことを認めたって事なんだと思うんです。

そして、自分が抱える問題を話すんですね。

だから私は無力なんだ。誰かの情けなさを証明する存在として、自分を置いているから。

そのことに気がついたミジョンは、実際に先輩に再会した時、困っていた彼を助け、少しずつ金を返すという彼を受け入れるのです。笑顔を浮かべて。

それはミジョンがク氏に「憎む相手の幻影が出てきたら、歓迎してみて」と言ったことの実践でもあって、そうやってク氏を応援することが、自分を応援することにもなっている。

一方のク氏。彼の正体はヤクザだったわけですが、一度ミジョンと別れソウルに戻り、アル中は相変わらずで荒んだ暮らしを続けます。どうにもこうにもミジョンが恋しくなり、再会します。

その後、「(数秒ずつ集めて)一日5分だけときめく時間を持って。私はそれで生きていける」というミジョンのアドバイスで、なんとか耐えているク氏。彼の一番のトラウマが何かというと、自分のせいで自死してしまったかつての恋人の記憶とその後悔なんですね。

そんな彼の方は解放されたのか。

最後のシーン。酒を買ってコンビニから出た彼のポケットからコインが落ちて転がります。コインは側溝に落ちるかと思うと、すれすれで金網の上で止まっています。

そのコインを不思議そうに眺めて拾ったク氏は、買った酒をホームレスの隣に置き、そのまま少し微笑んで歩いていく…ということで、希望の持てるラストになっています。

彼自身、ほんの少しの偶然で、下水に落ちるコインだったかも知れない。でも、なんとか生き残った。


もう会えない友人

ここまでが、コンサートのFINALを見るまえにドラマについてメモって置いた内容です。

FINAL では友人との別れを歌った「Dear My Friend」という曲を新たにセットリストに入れてきました。
この曲で歌われているのは、唯一の親友が、薬に手を出してつかまり、ユンギは毎週拘置所に通ったこと。出迎えたら、「お前も薬をやらないか」と言われて「無理だ」と思って関係を切ったこと。

この親友について、ユンギは「Spring Day」で「憎くて恋しい」と歌い、「憎むよりもマシだからもう消す」と言っていました。Dear My Friendでは「もしあのとき止めていたら、まだ親友でいられたんだろうか」と後悔を綴ります。
そして公式本のBeyond The Story。このインタビューがいつ行われたのかはっきりしませんが、ここではこんな風に回想しています。

ただ、すごく憎かったんです。その友だちが。

本当に会いたいのに会うことができないから。

つらいときに頼れるのはそのども立ちだけだったのに…。僕が練習生だった頃、一緒に話しながら「僕って本当にデビューできるものかな」ってわんわん泣いて、「世の中を圧倒してやろう!」なんて言いながら一緒に決心して。だけどその友だちは、今、どうしてるのか…。だから憎かったんです。

会おうとしたけれど会えなかった、という意味が、相手に拒否されたということなのか、それとも別の事情なのかは分かりませんが「取り返しが付かないこと」への後悔という意味では、ク氏の元恋人への思いに通じるものなのでしょう。

ク氏の「精神がクリアだと、やってくる(だから酒を飲む)」亡霊のように、ユンギの場合は、なんどもやってくる彼との思い出と後悔が故に、何度も歌詞に書かずにはいられなかったのかも知れません。

ステージで初めて披露した「Dear My Friend」でユンギは泣きました。三日目はほとんど歌えず、代わりにARMYたちが歌っていました。泣き方も、最後はもう人目もはばからずという感じで。

D-2の解説では「悲しい曲ですね」というARMYに「全然悲しくないですよ」と強がっていたユンギですけど、みんなの前であれだけ泣いて、またひとつ区切りにできたんだと思いたいです。

扉を開けることを決めていた、ARMYへの信頼

Weverse Magazineにはツアーのセトリについてその意図が書かれています。

SUGAが作った世界に存在するいくつもの自我を、今回の公演を通してすべてをなくして、生まれ変わるんです。ですので『D-DAY』が、すべてが終わる最後の日だという意味にもなり、生まれ変わる誕生日の概念にもなり得るんです。


「解放日誌」でも、ミジョンのこんな台詞が出てきます。
「自分がやってみたこともないことをやってみる。そうすれば春になる頃には別の人間になっているはず」だと。

ところで私はユンギの直球な歌詞と「生々しさ」、そしてそれとは対照的なプロデューサーとしての手腕との見事なバランスを、いつも関心しながら眺めているんですが、今回もそうでした。

ファイナル最後の演出ーーー「AMYGDALAのMVでは開かなかったトラウマの部屋のドアを開けて、ARMYたちに手を振って笑顔で出て行く」ユンギというのは、本人がそこまで予め絵を描いたものなわけですよね。
そういう意味で「つくりもの」、予め計画されたものなわけですが、実際にそこで歌い、叫び、一緒に場を持つことでそれが「演出」以上の本物になるはずだという、音楽とARMYへの限りない信頼を感じます。

ユンギの「解放」には、音楽制作を通じて自分の内面を見つめる作業とともに、ARMYからの応援が必要だったんだと思います。

そうやってたどり着いた場所には何があったんでしょうか。

ドラマ「私の解放日誌」で、「周りはどいつもこいつもクズばっかり」と言っていたミジョンは、晴れやかな笑顔で最後にこう言います「私の心にはいま愛しかない」と。

ミジョン:私、おかしくなったみたい。 自分がとても愛しい。 心に愛しかない。 だから感じるのは愛しかない。
ク:一歩、一歩、懸命に。

ARMYと力の限り씨발を叫んで、泣いて。最後は愛しかないような笑顔で、手を振り、部屋のドアを開けていきました。

「すごく楽しくて、幸せでした。感謝して、愛しています」

 
 
 
 
 
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最後のステージの後、インスタにユンギが書き込んだメッセージです。

ユンギも、私たちも、「一歩一歩、懸命に」続く人生を生きていく。
お互いを応援し、満たし合い、추앙しながら。

だからみなさん、2025年には一緒に「忘れないでミン・ユンギを探しに」行きましょう。